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「仰げば尊し」のリマスタリング

2013年春に制作し、アップしていた唱歌「仰げば尊し」を、この度リマスタリングしました。

今年の夏以降の、自宅スタジオにおける様々な試み(オーディオ・インターフェースのチェンジや外部ワード・クロックの導入など)によって、サウンドが良くなったという面を具体的な形で示す意味合いと、新しくなったマスタリング・ツール「OZONE 6」(当ブログ「OZONE 6の使用テスト」参照)を実践的に試す目的で、今回リマスタリングをおこないました。

結果から言うと、今回、リマスタリングのための下ごしらえとして、ミキシングの段階から修整しました。もちろん、パートの変更やヴォーカルのテイク変更などは一切おこなっていません。
ただし、ピアノとヴォーカルの定位関係を改善したいと思い、ピアノの低音部そして高音部の振り分けを施し、ヴォーカルの存在感を際立たせることにしました。逆に言えば、ピアノにはよりいっそう“伴奏役”として脇にまわってもらった形となります。

それから一部、当時のPro Tools 10内で使用していたプラグインが使えなくなっていたため、それらを別のプラグインと差し替えたわけですが、そうなってくるとダイナミクスのバランスがけっこう崩れてしまうので、ほとんどのプラグインを差し替えての調整となりました。
このミキシングの修整で一番重要だったのは、ピアノとヴォーカルそれぞれのだぶついた低域をカットすることでした。

【「仰げば尊し」におけるマキシマイザー設定】
こうしてやり直してバウンスしたミックス・ファイルを、新規のプロジェクトで改めて読み込み、マスタリングの作業を開始しました。使用したプラグインは前段にIK Multimediaの「Master EQ 432」、後段にiZotopeの「OZONE 6」です。

オリジナルのマスターでは、だぶついた低域があったせいもあり、またマキシマイザーの効きが良すぎたせいもあって、本来おとなしめのピアノがヴォーカルと同じように前面にしゃしゃり出ていたわけですが、そうしたサウンドのディテールを改め、今回のリマスタリングでは、ピアノとヴォーカルの音像の位置関係を重視し、あまり音圧を上げず、それぞれのパートのピークがはっきり分かるようなサウンドに仕上げました。

既にミキシングの段階でトータル・コンプをかけているので、マスタリングの段階ではこれ以上コンプをかけて音圧を上げることはせず、マキシマイザーでのプロセッシングでは、IRCでのナチュラルなリリース・コントロールを選択。音圧の壁にならないよう注意しながら調整しました。

【エキサイターで緻密な熱量を加える】
こうした調整を施したあと、エキサイターでユニークな効果を思いつきました。

まずミッドに切り替えて、ヴォーカルの中低域を“Dual Triode”で熱量を加え、Master EQ 432もミッドに切り替えて17kHzを少し持ち上げます。
そしてOZONE 6に戻り、エキサイターのサイドに切り替えて、高域を“Tape”で熱量を加えます。
つまり、ヴォーカルを際立たせるため、ピアノに対するエキサイターの効果の質感を変えることで、全体の空気感が特徴的かつ立体的になるのです。
ただしこれは、あくまでちょっとしたさじ加減の調整であり、やり過ぎるとミキシングでの効果が台無しになります。意味もなくいじるのではなく、具体的な指標に沿っておこなうべきだと思います。


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