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「知らん」のレコーディング―真夏のビオトープ

【Pro Toolsでオーディオ・クリップ化された「知らん」各パート】
昨日、オリジナルのプチ・ソング「知らん」のオケのレコーディングを終えました。
当ブログ「『知らん』―都会のカラスのように」でお伝えしたCubaseでの作業は、各々の音源の設定をまったく同じ形でPro Toolsに移行し再現。そしてCubaseで書き出しておいたMIDIファイルをそれぞれの音源にあてがい(インストゥルメントトラック)、Pro Tools上のトラック割りを準備するところから始まります。オケとなる全18パートはほぼ完全な形でPro Tools上に再現され、すべてレコーディングによってオーディオ化されました。

Pro Toolsのインストゥルメントトラックに配置された各パートのソフトウェア音源の音は、一旦、インターフェースのApolloから出力してアナログ・ミキサーMackie 1604-VLZ3を通り、再びApolloに戻され、そこでDSPプラグインによるアンプリファイアー&コンプ処理が施され、Pro Toolsのオーディオトラックにレコーディング。こうしてオーディオ・クリップ化されます。
私のやり方としては、これらのパートを複数まとめてレコーディングするのではなく、一つのパート毎を丁寧に慎重にレコーディングしていくやり方です。したがって、すべてのパートをレコーディングするにはそれなりの時間がかかります。

【Neve 88RSプラグイン】
このようにアナログ・ミキサーを経由し、アナログの充分な旨みを蓄えて戻された音は、DSPプラグインUNIVERSAL AUDIO Neve 88RSに通します。ここでアンプリファイアー&コンプ処理が施されます。もちろんパートによってコンプ処理の仕方はまったく違いますが、Neve独特の重心の低いどっしりとしたサウンドは特にリズム・パートに鋭気を与え、Cubaseで打ち込み作業をしていた時のノン・オイル的なサウンドとは色気がまったく違ってきます。当然、ここでのコンプ処理で無駄なピークを削ぎ落とす目的もあります。

レコーディングにおけるレベル管理はとても重要で、例えばソフトウェア音源のUVI FalconやMODARTT Pianoteq 5 Proなどは比較的サウンドのレベルが大きい(いわゆるドライブ感が強い)ので、音源のゲインをそれなりに下げた状態にし、アナログ経由され戻されたPro Toolsのレベルを監視した上で、コンプ処理をおこないます。ここでのレベル管理を怠っていい加減にレコーディングし、オーディオ化してしまうと、あとのミキシングでえらい痛い目に遭います。その経験から、私は一つずつ丁寧に時間をかけて各パートのレコーディングをおこなうのです。

そうしてオーディオ・クリップ化された各パート。これらの“すっぴん”の状態のミックスを聴くと、それぞれのパートが実に有機的、安定的な関係であることが分かります。まるで生きものが過ごしやすいビオトープのように――。もしこれを単純に、音源をそのままオーディオ書き出ししてクリップ化しただけであれば、このサウンドは絶対に得られないと思いました。色気のあるサウンドとは、こうした面倒くさい作業を経て得られるものなのです。

次回へ続く。


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